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横浜地方裁判所 昭和35年(む)303号 判決 1960年7月26日

被告人 木村猛之

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する売春防止法違反被告事件について昭和三五年七月一九日横浜地方裁判所裁判官小川昭二郎のなした保釈請求却下決定に対して弁護人杉崎重郎他二名より準抗告の申立があつたので当裁判所は左のとおり決定する。

主文

本件申立を棄却する。

理由

本件申立の趣旨は、「昭和三五年七月一九日横浜地方裁判所裁判官小川昭二郎がなした保釈請求却下決定を取消し保釈許可決定を求める。」、その理由の要旨は、「被告人木村猛之に関する右保釈請求却下決定は、被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある、との故をもつてなされたが、被告人には右理由は存しない。けだし、被告人は捜査官に対して終始犯行を自認しており、公判廷においてもその態度を変えることのないことは明白である。また、本件公訴事実の認定に必要と思料される証拠のうち、被告人および相被告人の供述調書はすべて詳細な自白調書であり、売春婦等の各供述調書は場所提供の回数等を記載した帳簿と相まつて売春回数を明らかにしており、しかもこれらの供述調書は相互に補強し合つており、結局本件各証拠はいわば一つの有機体をなしているから、かりに罪証隠滅する意思ありとしてもその隠滅は絶体に不可能である。故に、右保釈請求却下決定は違法不当のものであるから、この決定を取消し保釈許可の決定を求める。」というにある。

よつて一件記録を検討すると、被告人は、昭和三五年六月一六日売春防止法違反により起訴されたこと、右事実について刑事訴訟法第六〇条第二号、第三号に該当するものとして勾留されていること、同年七月一一日弁護人から保釈の請求があり、同月一九日横浜地方裁判所裁判官小川昭二郎が刑事訴訟法第八九条第四号に該当するものとして右請求を却下したことが明らかである。

しかして本件記録によれば被告人の供述調書中には一部そごしている部分もあるうえ、被告人は目下再度の執行猶予中の身であるので罪責を免れようと計る虞れが大きいところ本件の証人たるべき者は日頃密接な関係にある売春婦や売春周旋人であつて比較的罪証の隠滅が容易と思われるのみならず、他の共犯者に対する関係においても、それらはいずれも已が雇主ないし監督の立場にあるものであるから、それらの者に対し利益に作為する虞れも存るので被告人には罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるといわざるを得ない。

なおまた被告人の本件犯行は長期且継続的に行なわれたものであつて、しかも被告人はこれによつて生計を立てゝきたものであることを併せ考えると右犯行は常習として行なわれたものと認められる。

してみると被告人には刑事訴訟法第八九条第三号、第四号に定める理由があるものというべく、従つてその保釈請求を却下した原決定は結局正当であつて本件申立はその理由がないので之を棄却する。

よつて刑事訴訟法第四三二条第四二六条第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 赤穂三郎 村上幸太郎 奥山恒朗)

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